女相続人 (1949) : The Heiress

ウィリアム・ワイラーがパラマウントに入社しての第1回製作・監督に当たった作品で、19世紀の心理小説家ヘンリー・ジェームズの小説『ワシントン街』より、ルース及オーガスタス・ゲーツが戯曲化した「女相続人」に取材、劇作者が映画用に脚本を書き改めている。撮影はレオ・トーヴァー、音楽はアーロン・コープランド(アカデミー音楽賞)。出演者はオリヴィア・デ・ハヴィランド、モンゴメリイ・クリフト、ラルフ・リチャードソン、ミリアム・ホプキンスのほか、モナ・フリーマン、ヴァネッサ・ブラウン、セレナ・ロイル等である。

女相続人 (1949) : The Heiressのあらすじ

1850年のこと。ニューヨーク社交界の中心をなす富豪の邸宅が居並ぶワシントン街に居を占めるオースティン・スローパー博士(ラルフ・リチャードソン)は一人娘のキャサリン(オリヴィア・デ・ハヴィランド)と未亡人の妹ラヴィニア(ミリアム・ホプキンス)と女中の4人暮らしだった。博士の亡妻は才色ともにすぐれた婦人だったが、娘のキャサリンは容貌も特に秀でたわけでもなく、そのうえ社交性の乏しい引っ込み思案の娘だった。それが父にとってはやりきれない一事で、日頃、この不出来な娘に対し、憐憫とも軽侮ともつかぬ態度をもって向かっていたのである。キャサリンは父に対してはまったく頭のあがらない存在に過ぎなかった。叔母のラヴィニアは日頃、キャサリンの味方役をつとめていたが、スローパー家のよどんだ空気をどうすることもできない有り様だった。

ある日、キャサリンは従妹のマリアンの婚約の宴に父や叔母と共に出席した。踊りの下手で美しくない彼女の相手を勤める男もなかったのに、この夜、彼女の前に立つモーリス・タウンゼンド(モンゴメリイ・クリフト)という秀麗な青年があらわれ、キャサリンにとって夢かとばかり思われ、次第にこの青年の魅力に惹きこまれていった。しかし、スローパー博士はモーリスが定職ももたぬ遊情の青年であることを見ぬいていた。博士はモーリスが娘に求婚したと聞くとはげしく反対し、娘が彼を忘れるようにと欧州旅行に連れて行く。しかし、6カ月の旅行もキャサリンの気持ちを変えることはできなかった。

博士はモーリスが望んでいるのは娘でなく、娘の財産以外の何物でもない、もし娘がモーリスと結婚するなら相続権を棄てたものと覚悟するようにと言い放つ。キャサリンは一切を棄ててもモーリスと結婚しようと決意する。だが、迎えに来てくれるはずの青年モーリスは遂に現われなかった。キャサリンはモーリスが西部に去ったことを聞いて、彼を憎むとともに、父にも深い恨みの心を抱いた。父娘の間にどうすることもできぬ溝のできたまま、スローパー博士は肺炎で急逝した。ワシントン街の邸宅はキャサリンの思いのままとなり、5年過ぎた。

その夏のある日、ラヴィニアが西部から帰ってきたモーリスを伴ってきた。彼はかつての若さはなかったが、野心満々たる様子だった。モーリスは5年前の違約を深く詫び、彼女が自分のために莫大な遺産を失うことを見るに忍びなかったこと、いまなお彼女を愛していることを告白した。キャサリンは5年前彼に与えようとパリで購入した高価なカフス・リングを渡して、今晩訪ねてくるようにと言った。モーリスはその夜再びスローパー家の扉を叩いた。キャサリンはその音を聞きながら身動きもしなかった。彼女にはモーリスが5年前のように、自分の財産を欲しがったばかりか、今はなお愛情まで手に入れようと同じ嘘をいっていることをはっきり知っていたのである。